国の登録有形文化財
若林家住宅

コンセプト

国の登録有形文化財という街の喧噪から離れた特別な空間で
彦根の歴史と文化に思いを馳せながら
今日ここでしか味わえない「一期一会」の体験を五感で味わってください。

歴史

彦根の歴史を紡ぐ

滋賀県東部に位置する旧彦根藩を中心としたエリアは、湖東地方と呼ばれ、古くから軍事的にも政治的にも重要視されてきました。また、江戸時代後期から近代にかけて活躍した近江商人を多く生み出した地で、湖東地方の近江商人を「湖東商人」と呼びます。湖東商人は、明治新政府の近代的な経済・産業基盤の形成に貢献し、繊維産業の基礎を築きました。

滋賀県における近代的製糸業は、明治維新後に職を失った旧武士層のための「士族授産」を目的として始まりました。世界遺産である富岡製糸場には彦根士族の子女が派遣され、その数は全国最多でした。明治11年（1878）に県営彦根製糸場が誕生し、経営には井伊家が携わり近隣地域の近代化を牽引しました。この彦根近代化の波を受けて、明治24年（1891）に若林製糸、大正6年（1917）に近江絹糸が創業しました。

製糸には水が必要であったため、製糸工場のカラン（水道の蛇口）の製造が盛んになり、現在でも彦根は国内屈指のバルブ産地です。彦根には遺産が残っていないため、かつての彦根の隆盛を知る人は少ないかもしれません。しかし、彦根は地方創生と女性活躍推進の先駆けだったのです。

建築について

若林家住宅は、大正から昭和初期時代の洋室棟を敷設した和洋併置型の近代住宅です。敷地南側には広い池泉（ちせん）回遊式庭園をもち、座敷棟の北側には朝鮮石人像が並び、飛び石に大きな伽藍石のような石を配した特色のある庭が広がっています。昭和初期には朝鮮半島に製糸業の生産拠点が置かれていたこともあり、日本文化と大陸文化を融合させた力強さを感じる空間です。

建物の設計者や棟梁は明らかではありませんが、庭は東近江市五個荘の花文（現、花文造園土木株式会社）の二代目山村文七郎によって作られました。主庭は鈴鹿山脈を借景に南の築山の間より水を引き入れ、山里の緑と大きな池泉を展開し（近年池は涸れている）、春はツツジ、秋は紅葉が彩りを添え、景石や踏石にも個性がみられます。茶室からの景も竹林を遠景とし、槇垣で囲い蹲居を据えて、露地を整えています。座敷棟、そして茶室につづく建築空間の優れた点は「庭屋一如(ていおくいちにょ）」という言葉通り、庭とつながることでいっそう美事なものとなっています。

当家住宅は、地域に根ざす近代住宅であり、歴史的建築遺産としての価値が認められ、国の登録有形文化財として平成8年（1996）に登録されました。

建築主について

若林乙吉は明治5年（1872）に旧河瀬村・若林又三郎の4男として誕生しました。乙吉は河瀬村村長、滋賀県会議員を務め、若林製絲紡績を起こした近代事業家として知られています。これらの事績により、若林家住宅は当地における近代産業、近代の発展を伝える建築遺産ともみられています。

乙吉は近江商人として、経営者としての功績もさることながら、熱心な仏教徒としても知られ、河瀬小学校講堂、犬方町公民館の寄贈や、豊郷病院設立時の寄附など地域に貢献しました。また、乙吉の長男・新一郎は河瀬村最後の村長として、彦根市の発展に貢献したと伝えられています。

乙吉は、滋賀県近江八幡市を中心に多くの西洋建築を設計したウィリアム・メレル・ヴォーリズと親交があり、当家洋室棟は彼の設計と口伝により伝えられてきました。そこで、ヴォーリズ建築研究の第一人者の山形政昭先生に調査をお願いしましたが、残念ながら、設計者の特定には至りませんでした。ヴォーリズは「青い目の近江商人」とも呼ばれ、彼が設計する建築は近江商人の「三方よし」に通じるものです。

近江商人の経営哲学の実践

ご利用案内

井伊家は彦根藩主として江戸時代に滋賀県の湖東地方を中心とした一帯を治め、江戸幕府の治世を支えました。また、湖東地方は「湖東商人」と呼ばれる近代近江商人が活躍した地です。若林家住宅はこの地にある洋室棟を敷設し茶室を有する、築130年以上の和洋併置型の近代住宅で、住宅の一部をレンタルスペースとして貸し出ししています。


彦根における「茶の湯」の歴史は深く、井伊家13代当主である井伊直弼公は石州流の一派を創設しました。直弼公は文武諸芸に打ち込み、自ら著した「茶湯一会集」で「一期一会」の茶の湯の心構えを示しました。彦根市では、この「一期一会」の精神を継承するため、令和5年（2023）に「井伊直弼公の功績を尊び茶の湯・一期一会の文化を広める条例」が制定されました。

旧彦根藩にある国の登録有形文化財で、人と情報の交流や、茶道、華道の個展などの伝統的な催しを通して、「歴史と伝統を生かした文化の香り高いまちの実現」をどうぞお楽しみください。

お知らせ

若林家住宅では、茶道、華道などの伝統的な日本文化を体験するイベントを不定期に開催しています。また、文化財の維持・管理や活用に関わる研修の場を提供しています。
開催が決まりましたら、こちらでお知らせいたします。

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（滋賀登文会）